まねき猫の部屋

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関西国際空港 変電設備への浸水についての想定内と想定外を考える

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数あるブログからご訪問ありがとうございます。

今日は、先日の台風で関西国際空港が浸水し、地下の変電設備が使えなくなった事例から想定の内と外について考えてみます。

 

数字をクリックするとジャンプします。
お忙しい方は一部だけでもご覧ください。

目次

1.台風による変電設備への浸水

2.想定外とは

3.これまでの津波を振り返る

4.関西国際空港は想定外のCか?

5.まとめ

 

1.台風による変電設備の浸水

2018年9月4日14時ごろ上陸した台風21号は、大阪市で最大潮位329cmを記録し、関西国際空港では瞬間最大風速58.1mが観測されるなど、暴風と高潮による甚大な被害をもたらしました。

被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げます。

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関西空港は、2016年の台風でも護岸を越えた波が道路をえぐり取るなどの被害が発生しています。そのため、高潮や津波に対して、護岸のかさ上げや補強工事を計画的に実施してきました。

 

関空1期島のA滑走路は、海面から約5m高い位置にあり、護岸の高さは約2.7m。南海トラフ地震で想定される津波の高さ1.7mよりさらに1m高い位置に補強されていましたが、浸水しました。

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参考:関西国際空港 津波地震BCP資料他より

 

関西エアポートは、「50年に1度に相当する高波が来襲しても、波が護岸を越えないようにコンクリートを継ぎ足した」と説明していましたが、結果的にはA滑走路は水浸しになりました。

広報担当者は、
今回の高潮被害は、これまでの想定を上回るものだった
と説明しています。

 

ちなみに、B滑走路は最も低いところでも4.6mあったそうで、高潮被害がほとんど起こっていません。

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今回の被害で私が注目したのは、地下変電設備です。

高潮被害で、建物の地下にあった防災センターや通信設備が浸水してしまい使用不可能になりました。

同様に、地下にあった送電用変電設備6基のうち、3基も浸水で故障しました。

地下には、作業車などが通るスロープがあり、そこから水が入り込んだとのことです。

電気室の扉には高さ40センチの止水板を設けていたそうですが、地下の水位は、それを越える80~90センチに達していました。

 

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被災から1カ月後、10月3日に会見した山谷佳之社長は「津波で地下が水没するマニュアルはあったが、台風に対して認識が甘かった。リスク認識が不十分だった」と述べ、大規模停電の原因になった地下の電源施設を地上に移動させる方針も明らかにしました。


今回の高潮被害は、これまでの想定を上回るものだった

 と説明していますが、

想定外

としている点には、
多くの反論の声が寄せられています。

 

そこで、想定の内と外の定義を確認しながら、今回の事例をいくつかの記事から振り返ってみたいと思います。

 

お忙しい方は、「終わりへ」を「プチ」とすると文末に飛びます。

終わりへ

 

2.想定外とは

想定外という言葉は、2011年の福島原発事故の後から、使われることが多くなった言葉の1つでしょう。

 

まずは、想定内と想定外について、理解を深めてみたいと思います。

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想定するとは、

新しい設備や製品・サービスを設計する上で、

考える範囲を決めて制約条件を設定(仮定)すること

だそうです。

この定義は、失敗学の畑村洋太郎先生の書かれた本から引用させていただきました。

出典:最新図解 失敗学  P.227より

つまり、

想定内とは、「考える範囲の内側で、詳しく検討する対象」で

想定外は、 「考える範囲の外側で、検討をしない部分」

といったことになるようです。

 

この内と外を、身近な例で考えてみましょう。

ここでは、スマートホンを例にしてみます。


iPhone7の製品保証書を見てみましょう。

 

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参照:iPhone 7 - 仕様 - Apple(日本)

 

仕様書の動作環境の保証の範囲を公式ホームページからコピーしました。

たとえば、

動作時環境温度 0℃~35℃

と書いてあります。

iPhone7は、環境温度が35℃以上や0℃以下での動作を保証していません。

 

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そうですね。

実際の製品は、35℃以上でも動作します。

それは、保証の範囲より広い検討条件を決めて動作検証をしてあるからです。
設計条件と言ったりします。

この設計条件が、iPhoneの考える範囲=想定内となります。

 

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具体的な、iPhone7の設計条件は、一般利用者には公開していません。

そこで、使用している半導体(IC)の仕様書例から推測してみます。

 

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「Absolute Maximum Ratings」は、絶対最大定格値と訳します。

「ここに書かれた数字の範囲までしか検討していません」と理解していただければいいかもしれません。

2行目に「Operating temperature」とありますが、
これが動作温度の最大保証範囲を表しています。

動作保証温度が、ー10℃から+60℃となっています。

つまり、氷点下10℃から+60℃まで動作を検証し保証しています。

iPhoneの設計条件も、たぶんこの辺りにあると推測できます。

 

そのため、普通の炎天下くらいでは、動くのですね。

 

想定内とは、

iPhoneの例でいうと、

-10℃から+60℃が

温度の想定内といえそうです。

 

 

ちなみに、上の表の「Storege temperature」は、
動作はさせない保存状態で、故障しないことを検証している温度の範囲です。

この半導体の場合は、-50℃から+125℃までを保証しています。

 

実際のスマートホンの設計の現場では、

・電波送受信の設計条件
・アプリが動作する設計条件
・イヤホンや外部電源、パソコンとの信号の受け渡しの設計条件

など多くの設計条件が設定されます。

 

こうした設計条件をまとめた書類を、設計仕様書などいいます。
この仕様書は、数100ページに及ぶそうです。

 

とはいえ、こうした想定(保証)する範囲を決めることで、検討する範囲を絞ってっ検討の費用が無制限に増えないようにしているのです。

 

iPhoneを例に、想定内を具体的に見てみました。

iPhoneの例では、公に補償している温度範囲は、

0℃~35℃

と狭いものの

設計上で、想定して検証している範囲は、

ー10℃から+60℃

と、約2倍も広いことがわかりました。

 

では、話を関西国際空港の浸水の想定内を戻します。

 

 

忙しい方用:終わりへ

 

3.これまでの津波を振り返る

初めに紹介した関西エアポートの広報担当者のコメント、
今回の高潮被害は、これまでの想定を上回るものだった

 と説明していました。

ここでいう想定は、たとえば津波で言うと、

南海トラフ地震で想定される 津波の高さ1.7m だそうです。

関西エアポートは高波対策にあたり、「50年に1度に相当する高波が来襲しても、波が護岸を越えないようにコンクリートを継ぎ足した」と言っています。

護岸の高さは約2.7m

にしたとありましたね。

約2.7-1.7=1mの余裕を持たせたことになります。

しかし、1mというのは、あまり余裕のありそうな数字と感じないのは私だけでしょうか?

しかも、変電設備などのある地下の耐水化のことはふれてもいません。

電気室の扉には高さ40センチの止水板を設けていただけです。

 

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では、過去に発生した津波を見てみましょう。

最近の例といえば、2011年3月11日の東日本大震災の様子は印象に強く残っています。

失敗学の本に、当時の津波の高さが記載されています。

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引用:失敗学p.229より 最新図解 失敗学

 

福島第一原発の設置許可申請時は、津波想定はチリ地震の3.1mだったそうです。

その後、6.1mまで拡大させました。当時、10m越えの巨大津波の可能性を指摘されていましたが、当時の大勢の学者が否定したことで無視されたそうです。

結果的には15mもの津波がやってきて被災したことはご存知の通りです。

 

この地震では、海面からの高さ1.7mにあった仙台空港も、2mの津波が来て浸水し、地上にあった電源施設も水没しました。

高波に対して、対策が脆弱だった印象がぬぐえません。

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出典:仙台港湾空港技術調査事務所 報告書より

http://www.thr.mlit.go.jp/Bumon/B00097/k00360/.../H24/.../5-2.pdf

 

この事例から、空港の検討課題として電源などの耐水化の必要性が2011年12月には指摘されています。

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出典:国土交通省 国土技術政策総合研究所 国内で生じた災害の調査報告

 

この資料の中には、海岸線より概ね5km以内に位置する標点20m以下の空港も示されていました。

関西国際空港もその中の1つでした。

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こうした報告書を、関西国際空港の関係者が読んでいないはずがないと思うのですが…

 

忙しい方用:終わりへ

 

4.関西国際空港は想定外のCか?

柳田 邦男さんをご存知でしょうか?

ノンフィクション作家、評論家をされていて、航空機事故、医療事故、災害、戦争などのドキュメントや評論を数多く執筆している方です。

その柳田さんが、東日本大震災の対応について、当時の社長に想定外について3つのケースを示して問い詰めました。

その3つのケースがこれです。

A:本当に想定できなかったケース

B:ある程度想定できたが,データが不確かだったり,確率が低いと見られたりしたために除外されたケース

C:発生が予想されたが,その事態に対する対策に本気で取り組むと,設計が大がかりになり投資額が巨大になるので、そんなことは当面起こらないだろうと楽観論を掲げて、想定の上限を線引きしてしまったケース

という 3 つのケースだそうです。

 東電は、どのケースで想定したのかと問い詰めたのでした。
東電の返事は、探してみましたが見つかりませんでした。

 

柳田さんは、

ケース A は極めてすくない。

B か C,あるいは B と C の中間当たりのケースが大半を占 めていると述べています。

 

さきほど、iPhoneの例でも書きましたが、想定をするのは効果対費用の線引きをしているからでしょうね。

 

関西国際空港の過去と今

関西空港は、国と地元自治体、経済界が出資する関西国際空港株式会社(関空会社)により、管理・運営されてきました。

1992年(平成4)の供用開始予定が、漁業補償の交渉の遅れ、埋立面積の増加、予想以上の軟弱な地盤のため地盤沈下対策を強化したこと、複雑なターミナルビル工事などで工期は約2年も遅れて、1994年9月4日にようやく開港したました。

また事業費も大幅に増大し、当初は1期分で8200億円であったのが、付帯工事の追加や金利負担の増加によって、1兆4580億円にもなっています。

毎年100億円の補助金を受けている「ダメ空港」とも言われ続けてきました。

その打開策として、2012年に関西空港と大阪空港の統合や、2016年4月1日にはオリックスと仏空港運営大手バンシ・エアポートの企業連合による新会社「関西エアポート」による空港運営が始まりました。

その成果が表れ、2016年3月期決算で営業利益が成田国際空港を上回るまでの優良会社に変身しています。

2017年度も、営業利益が前年比40%増の529億円と、大幅な増収増益決算を実現しています。

背景には、関西国際空港における新規就航航空会社の存在や、韓国(27%増)、中国(16%増)、香港/マカオ(23%増)など東アジアからの旅客数の順調な伸びが挙げられるといいます。

参照:関西国際空港(かんさいこくさいくうこう)とは - コトバンク

 

一方で、これまで赤字経営であったことや、民間の手法が導入されたことで、費用対効果の厳しい線引きが行われたことが想像できます。

そうした中で、空港の変電設備の耐水化の必要性を関係者はどう見ていたのでしょうか?

私は、柳田さんのCのケースだったのではないかと推察しています。

 

空港運営は、大規模災害や景気、国際情勢など外部環境に影響を受けやすい事業です。

過去には、アルゼンチンで民間に移行後に起きた経済危機で航空需要が低迷し、経営が行き詰まった事例もあります。

今回、関西国際空港は浸水被害に遭いました。かなりの痛手になることでしょう。

 

このピンチをしっかり切り抜けて公約した対策を実現してほしいと願っています。

 

 

忙しい方用:終わりへ

 

5.まとめ

今回の関西国際空港の電源施設への浸水は、多くの人が疑問に思うように、本当の意味での想定外といえないケースに感じました。

想定外という発言が安易に使われているケースが多いのではないかと思われます。

 

今日は、想定の内と外について書いてみました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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 以下前回のお礼です。

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また、時間が取れるようになりましたら、

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